本カメラは「ローライコードII」だと思われる。ちょっと自信がないのは、ローライコードはサブタイプが多く、本カメラの特徴であるトリオターブランドのレンズを登載したモデルに限定しても長く生産していたので、断定ができないのだ。しかし、クラシックなロゴとスタイリングからして「ローライコードII」と考えるのが妥当だろう。これが、「ローライコードI(初代)」だとアールデコを思わせる特徴的なスタイリングであり、「ローライコードIII」だとグッとモダンなスタイリングになる。ややこしいのは、生産時期が重なっているらしいのだ。興味のある方はお調べ頂きたい。
ローライコードはローライフレックスの廉価版として登場したブランドである。この辺の話は幾つものコンテンツが紹介しているので、拙僧の稚拙なコンテンツは簡素にさせていただきたい。ローライフレックスの登場は1929年とされており、当時でもマイナーな117判フィルムを採用していた。ステレオカメラから興ったローライ(フランケ&ハイデッケ)だが、商売的にはイマイチだったと言われる。三眼レフのステレオカメラのレンズを1ユニット省略して二眼レフカメラとして登場したのがローライフレックスだ。ちなみに二眼カメラというジャンルは乾板時代から存在した。拙僧が幼少の頃は一眼レフが普通だったが、あのパカパカ動くミラーがクイックリターンになるまでは、結構、メンドクサイカメラだったのだ。大判カメラを使ったことのある方ならご存じだと思うのだが、一つのレンズでフォーカシングと露光を兼ねるとなると、レンズシャッターを開いたり閉じて、絞りを絞ったり、ミラーの上げ下げを手動で行ったりと操作が煩雑なのだ。なので、戦後も暫くは一眼レフカメラは顕微鏡撮影とか長焦点レンズ使用時とか限定的な運用だった。それを普及するきっかけとなったのが今やリコーのブランドの一つとなったペンタックス、つまり旭光学がコンシューマに提供したクイックリターンのギミックである。このクイックリターンのギミックは、実際にはハンガリーのガンマが先に実現していたのだが、何せ冷戦激しかった頃の東側のカメラであり、コンシューマの認知には至らなかった。ペンタックスの功績は一塵の曇りもない。その辺りは再生細胞で迂闊が露わになった理化学女子と一緒にしてほしくないよな。余談が長くなったが、二眼カメラのアイデアは19世紀から存在したが、レンズは2つも必要でコストが掛かるし、乾板時代だからボディは重いしで20世紀には廃れていた。21世紀になって一眼レフの「レフ」が消えて「一眼デジカメ」になってしまったのも、いずれは歴史に消えるのだろうな。
フォーカスレンズを通った光学系をレフレクスミラーでボディ上部のファインダーに導き、乾板に比べて遥かに軽量のロールフィルムと組み合わせたのはローライのアイデアの冴えであろう。117判フィルムと言うマイナーなフィルムを採用したのは、当時の120番フィルの裏紙はシックス判のナンバーを打印していなかったからのようだ。マイナーな規格のフィルムでは販路が限られる。しかし、フィルムメーカーにナンバーの打印を依頼するほど、当時のローライはメジャーではなかった。なので、赤窓でフィルム裏紙の打印を確認しなくてもシックス判、つまり6x6の巻き上げとストップを自動で行うギミックが必要となった。それを実現したのが再びローライの冴えである。最初はフィルムの1枚目だけを赤窓で確認し、リセットボタンでカウンターをリセットするセミオートマットだった。多分、1枚目は当時のメジャーフォーマットである6x9の打印を利用したのだろう。それだけでも実用には大して問題は無いのだが、ローライの冴えは留まらなかった。その後、割と早い段階でロームフィルムをローラーで挟み込んで、裏紙にテープで貼りついているフィルムの厚さを感知してフィルムカウンターのリセットと巻き止めを自動化したオートマットを実現する。それはそれで素晴らしいギミックだったのだが、ちょっとコスト高になった。なにせ戦前、つまり第二次世界大戦より前の話である。ローライフレックスは当時の最高級レンズであるテッサーを搭載していたしな。なので、フィルムの巻き上げは一歩原始的なセミオートマットにして、廉価なトリオターレンズを搭載したローライコードが登場する。テッサーは4枚玉でトリオターが3枚玉だからちょっとチープな気もするが、なにしろ戦前の話だし、とにかくカールツアイスなのだから立派なものだ。もっとも、初期のローライコードはローライフレックスと同様にゴールドのクロス模様で、本当に廉価市場をターゲットにしたのか、ちょっと怪しいな。トリオターを搭載したローライコードの生産は戦後も継続したらしく、太平洋戦争敗北後の我が国の知識階層でも、自分のサラリーでやっと買えたのは中古のローライコードだったという。あんまり「〜らしい」という不明瞭な発言を控えたいのだが、ローライコードくらい有名で生産時期も長いカメラになると、迂闊に断定できないのだ。
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ローライコードの歴史的な序列は詳しい先輩諸氏のコンテンツにお譲りしたい。拙僧の個体はネットオークションで手に入れたものである。記憶では送料込みで3000円を切っていた。トリオターのローライコードも、大抵はそんな安い価格帯で終了しない。タマタマ、タイミングが良かったのだろう。不思議なものでネットオークションは兢札者がいないとか、稀にタイミングがよく相場よりもかなり安くブツを確保できることがある。ブツの外観はそれなりにヤレテいたが動作部は問題なかった。ミラーに埃が堆積していたが、二眼レフカメラに共通の構造上のネックであり大した問題では無い。ファインダーを固定する4つのマイナスネジを緩めてファインダーユニットを外し、ミラーを拭けばいいだけの話だ。ただ、他の二眼レフと同様にミラーは素人が拭くのを前提としていないので傷がつきやすい。拙僧の精度であればレンズを拭く程度のデリカシーで問題ないだろう。レンズもそれなりに汚れていたと思うのだが、分解には至っていない。
機能的な特徴であるセミオートマットだが、ちょっと支障があったようだ。実は本カメラの担当する戦域が激しい戦闘中であり個体を確認できないのだ。しかし、そういうメモがある。撮影結果に不具合を感じないので、とにかく撮影には大して問題は無かったのだろう。ローライコードというとEV式という絞りレバーとシャッター速度レバーが連動するちょっと面倒な操作系が難点なのだが、本カメラは設計が旧いので影響がない筈である。また、シャッターチャージとレリーズを1本のレバーの往復で行うのがローライコードの特徴である。似たような設計思想は我国のリコーフレックスなども継承しているのだが、知らないとチャージレバーが無いので焦るだろう。巻き上げは、フィルムの1枚目をボディ下部の赤窓で確認し、巻き上げノブの中心にあるリセットボタンでフィルムカウンターをリセットするセミオートマットである。ちょっと思い出したのだが、本来ならフィルムカウンター窓で確認する巻き上げが、1枚毎に自動で巻き止めになるのだが、拙僧の個体は巻き止めのロックがかからず、フィルムカウンターの数字で巻き上げた。それが個体の不良なのか、初期のモデルでは仕様が巻き止めが自動でなかったのかは分からない。複雑なギミックのローライフレックスに比べて故障率が低いと評価を受けるローライコードだが、拙僧個人は赤窓式の方が更に嬉しいな。今なら120判フィルムだってシックス判の打印があるし。
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拙僧がローライの実力を知ったのは八王子在住時代の近所の友人(年配者)の方のクセナー付きのローライコードだった。その友人はお子さんをモノクロで撮影するのをプルーフとしていらっしゃったのだが、その写りに惚れ込んでしまったな。去年末(2013年)にネットで知り合った女子からモノクロで撮影する良い中判カメラの質問があったが、即効でクセナーのローライコードをお勧めした。なんでもネット男子は無責任にハッセルを勧めたらしいんだが、あんな面倒なカメラはスマートじゃないし、二眼レフを構えた女子は気が利いている。
拙僧も何れはクセナーのローライコードを確保したいものである。しかし、トリオターの実力を知ってクセナーの展開はありがたいものだと思うだろうが、クセナーを知ってトリオターだとありがたさも不十分な気がするな。なので、今はトリオターを充分に味わうべきだろう。
不思議なことにクセノタールは興味があるのだが、プラナーのローライフレックスは欲しいと思わないんだなあ。
では、
撮影結果(岡崎散歩)を見て頂きたい。
(了:2014/3/14)