ニコン EF100(ナイス・タッチ2)について


NikonEF100

☆ジャンク度☆
電池蓋破損
ファインダー曇り
撮影可能


NikonEF100 NikonEF100
 有機的なカーブを描くボディライン。
 本当にニコンがデザインしたのかなあ。香港か台湾のカメラにニコンブランドを付けただけじゃないかなあ。


NikonEF100 NikonEF100
 3枚玉のニコンレンズはマクロモード付き。


NikonEF100
 残念ながら電池蓋が破損。
 モーターもかなり経たているようで、もっさりと動作する。


NikonEF100 NikonEF100
 通常は液晶部にISO感度を表示するが、フラッシュ起動時には照射距離を表示する。

 「簡易カメラ」の歴史は古い。かつては「トイカメ」とか「ロモグラフィ―」なんて気の利いた言い草は無かった。しかし、戦前にはライカだのレチナだのトロピカル・ソホ・レフレックスという本当の「正式カメラ」を買うことは極めて難しかった。なので単玉で固定焦点(パンフォーカス)の「簡易カメラ」は世界的に普及した。我が国でもベスト・コダックや派生した小西六・パーレットが流行ったようだ。いや、当時としてみれば「簡易カメラ」どころか立派な「正式カメラ」だったろうな。世界的にはロールフィルムを使用するボックスカメラが「簡易カメラ」として普及したのだが、我国では「貧乏臭い」というので、あまり普及しなかったようだ。当時、ひとまず感材に投下できる資本があった方なら、ワザワザ高いフィルムをボール紙で出来たボックスカメラで消費するのはアンバランスだったのだろう。同様のクラスのカメラはデジカメ時代も「トイデジカメ」として普及する。何しろ、旧世紀はデジカメも高かったからな。「トイデジカメ」と「正式デジカメ」の中間を狙ったバランスの良いデジカメも登場した。フジフィルムのファインピクスA201あたりは成功作だと思う。
 悲劇的な先の大戦も敗北で終わり、皮肉なことに朝鮮戦争の特需で我が国もカメラや写真といった趣向品に手が届くようになる。リコーフレックスあたりは、その辺の渇望感にフィットしたのだろう。そこまでは手が出ない、或いは恵まれた子供向けの「簡易カメラ」も依然存在した。有名な所はフジペットだな。中判のフジペットは単玉のプリミティブなボックスカメラだったが、ライカ判フジペット35になると4速+バルブに3枚玉を組み合わせた、「ちゃんとしたカメラ」になった。勿論、ボックスカメラをそのままライカ判に転用して、外面だけ「正式カメラ」に見せかけた「簡易カメラ」も多数存在した。ボルタ判という「簡易カメラ」にとって、メジャーなフィルムの規格もあった。現在でもEDX DL2000Aに近いカメラが「アルマーニ」とか「ローレックス」とか名前を変えて西単あたりで新品で売っているんじゃないかな。もう、4年くらい北京に近づいていないので確信は無いけど。有名ブランドになると、流石にレンズは単玉ではなく複数構成だけど、単速で固定焦点なのにモータードライブを組み合わせた「正式カメラ」風の「拡張簡易カメラ」は、拙僧が写真趣味に目覚めた90年代半ばも、当たり前のようにビックカメラやヨドバシカメラで売っていたな。恐らく、「簡易カメラ」を確信的に「正式カメラ」に見せかけて流通したのは「写るんです」の成功以降じゃないのかな。「こんなもので売れるのか」と主にフィルムメーカーが確信したのだろう。ボルタ判の「簡易カメラ」は供給側も消費者側も「その辺の事情」を了解していたと思うのだが。カメラメーカーよりはフィルムメーカーの方が、大胆に簡素化したカメラをゴージャスな外観に見せかけて売っていた。中には本当に酷い物もあったようだ。
                           ☆            ☆
 ニコンが入門機・中級機に弱かったのは、既に伝説かもしれないな。キムタク以降のクールピクスになると、そこそこ商売もお上手になったように見える。D3000シリーズだって、「安い」というよりは「小さくてカワイイ」と、一定の評価を受けているようだ。ニコンの廉価モデルの失敗作として語られているのがニコレックスであろう。朝日ソノラマ系の解説本では、ニコン関係者から「協力会社の品質レベルがニコンとかけ離れていた」とか言っているが、そういうのは昭和のニコンフォロワーとしては「伝説」として嬉しいが、それは作り手の都合で消費者の都合ではない。現に、動くマミヤの初期の一眼レフだって拙僧の師団には転がっているからな。ただ、ニコンフォロワーのブランド志向(というか願望だな)と、「商売になる廉価モデル」の差にニコンも苦しんだのは確かだろうな。ニコンが「廉価モデル」とは言わないまでも、高級機でないモデルを展開できたのはニコマートブランドの勃興以降だろう。それだって、当時の方にすれば気合の入った選択肢だっただろうな。ニコマートはそこそこ手が届く価格帯だったかもしれないけど、ニッコールを買うというのは覚悟のいる選択肢だっただろう。サンやトップマンのレンズを使うくらいなら、別にペンタックスでもミノルタでも良かったわけだし。その後、ニコンもFMやFEで価格とクオリティのバランス感覚を身に付けていくのだが、「ニコンとしてはギリギリのコストカット」とされたEMだって、安物にも見えなければ旨味のある商売になったとも思えないな。
 時代はAFやモータードライブ等の自動化に突入し、AFコンパクトカメラのニーズも高まった。ニコンが始めて手がけたコンパクトカメラがニコンL35である。割としっかりした作りなのだが、こいつに5枚玉のレンズ組み合わせたのは、やっぱりニコンの商売下手を感じるな。ペンタックスのPC35AF−M オートロン2もそうなのだが、安さに割り切れないメーカーの姿勢は、我々無責任なフォロワー気分には嬉しいものだが、簡単に安売りは出来ないし商売としては困るよなあ。ニコンも「とにかく安くしないと」という事情は察していたのだろうが、外装はプアなLTWAD(ピカイチテレ)も中身は結構手が込んでいてお金がかかっていそうだ。ニコンの割り切りの難しさを感じる。
 そんなニコンが思いっきり割り切ったのが本カメラである。本カメラはニコンフォロワーにも知られていないか無視されているようで、ネット検索で「ニコン EF100」と検索しても、殆どヒットしないだろう。多分、キヤノンのEFレンズの何かの方が遥かにヒットするだろうな。あまり国内では流通しなかったのではないだろうか。実は拙僧のブログである意してプラカメ拾う者なしで報告させていただいたことがある。その時はまだ、実際に撮影していなかったので簡単な紹介に留めたが、どうもその頃はニコンの公式HPの系譜に名前くらいは載っていたようだ。しかし、現在ではそのリンクは途切れており、辛うじて海外向け公式HPに名前を留めている。
 限定的な情報ソースから推測も含めて本カメラを紹介しよう。登場は1993年だというから、案外古いカメラではないな。「ナイス・タッチ2(Nice・Touch2)」のペットネームを授かるが、「ナイス・タッチ(初代、若しくは1)」というのは無いようだ。「ナイス」にしろ「タッチ」にしろ、ニコンが好むフレーズである。クーピースタイルのクールピクスは「ナイスグリップ」だし、ちゃんとしたモダンなAFコンパクトカメラは「ライトタッチ」だしな。ニコンEF100シリーズとしては最終的にはニコンEF500Vまでの5機種が登場した。どのようなデザインのカメラなのか全くわからないのだが、本カメラの35mmF4.5から31mmF5.1、29mmF4.5、28mm(F値不明)とレンズの焦点距離が広角化している。28mmのレンズを搭載したEF400VとEF500Vは、恐らくほぼ同じものでニコンEF500Vにはセルフタイマーがついたのではないだろうか。EF400Vには「ナイス・タッチ5」のペットネームを与えているが、EF500Vはノーネームのようだ。両機種ともスーパービューファインダーと紹介してあるので、例の海外人が好きな大型のビューファインダーを登載しているのだろう。EF500Vの登場が2002年なので21世紀は超えたのだが、何時頃まで生産していたのかは、全くわからない。
 ボディは曲面で構成し、明確な鏡筒を持たない。基本的にはAFもAEも登載しない、固定焦点(パンフォーカス)の「簡易カメラ」である。巻き上げはモーター化しており、フィルム装填も簡便化しているが、フィルムカウンターが「1」を指すまで空シャッターを切るようなギミックは無い。この個体は既にモーターが経たっているので、手で巻き上げさせてほしいところだな。本カメラがスイーティ―なのはレンズである。ニコンはこのすっからかんのカメラに3群3枚のレンズを奢った。基本的には露出も固定なのだが、常時がF11(推定)でフラッシュを起動するとF8(推定)の開放になり、マクロモードではF16(推定)に絞り込む。シャッターは機械式の1/125のみの単速なのだが、意外と露出を選べる。コニカのEFJを髣髴させる。マクロモードでも特にレンズが繰り出すとも思えない。これはフラッシュとF値の絞り込みを組み合わせて被写界深度を稼ぐスタイルで、0.55mの接写が可能である。キヤノンのオートボーイ ライトにも見られる手法だ。DXコードに対応している風なのだが、何を制御しているのかはサッパリわからないな。ファインダーも何の情報を表示するわけでもなく、素通しである。この個体は透明の樹脂が白濁しているので、ハッキリと被写体を見ることもできない。本カメラで真面目にフレーミングするのも、期待しすぎだと思うな。
 なにしろ、プリミティブなカメラなので操作には困らない。しかし、この個体は電池蓋破損が破損して、テープで張り付けたくらいでは動作しなかったので、指でテンションを与えながら少々無理なフレーミングを強いられた。なので、ちょっと手ブレしているカットが散見する。固定焦点だからといって、結像はしっかりしたものである。
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 製造はマレーシア。なんだか、マレーシアの廉価カメラの製造メーカーの企画をニコンが買ったのかとも思うのだが。それにしてはレンズがイイので、その辺はニコンの拘りなのかもしれないな。カラーよりもモノクロを試してほしい。しかし、モノクロフィルムが1本400円くらいする時代だから、本カメラでモノクロフィルムを試すのも勇気がいるよな。現に、本カメラは100円でジャンク駕籠に転がっていたのだ。数年前の話である。
 ニコンのカメラが100円というだけで、王や長嶋と共にニコンを敬愛ししていた方々にとっては悲しい事態かもしれないな。2013年において、ニコンもかなり商売がうまくなったようだ。それでも、ニコン1の状況を見るにつれて、ニコンの割り切れない姿は、我々、オールドタイマーにはキュートな所ではある。しかし、今後、韓国や中国勢の廉価高性能デジカメと熾烈な戦いを想像すると、骨太で商売上手なニコンでもあって欲しいな。

    では、撮影結果を見て頂きたい。

(了:2013/9/14)


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