KMZ ゼニットCについて


ZenitC
スマートとは言えないが、キュートで憎めないカメラである。

☆ジャンク度☆
不具合無し?
撮影可能


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 サモワールと言う言葉が似合う賑やかな軍幹部。
 小ぶりなペンタ部がSO−CUTE。

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 付属の「インダスタール−50 5cm F3.5」はパンケーキの如くコンパクト。

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 方にはシンクロ接点が有り「C(シンクロ)」の示すところとなる。
 ペンタ部にはKMZの意匠が。

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 巻き上げはノブ式。シャッターは1/25〜1/500まで。
 クイックリターンではなく、巻上げと同時にミラーが下がる。

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 接眼部は金属製でメガネのレンズを大いに傷つける。
 貼り革の代わりに金属製ボディにモールドがなされているのはソビエト式。

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 フィルム装填はLマウントライカ同様、底蓋を外して行う。

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 装填するフィルムに切り込みを入れるのがLマウントライカの儀式である。

ZenitC
 儀式を怠ると、このようにフィルムをシャッター幕が噛んでしまう。
 ライカはこんな事にはならないと思うのだが、どうだろう?

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 重厚な速写ケース付き。

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 ケースのフロントには「ZENIT−C」のロゴ、バックにはKMZの意匠が刻印。

ZenitC
 ニコンF−501に比べるとこんなに小さい。

 あるべき常識的なスタイリングというのが工業製品にはある。例えば、一眼レフカメラならニコンFEやペンタックスMEのような物を思い浮かべるだろうし、コンパクトカメラならコニカC35やコンタックスT2のような物を思い浮かべるだろう。ところが、そういう常識的なスタイリングを逸脱したジャンルが存在する。それがソビエト物だ。
 ソビエトの技術は単純に大きくしたり、単純に束ねたりする技術だ。航空機で言えば前者はSu−17に対するTu−22Mに見られるし、後者は宇宙ロケットなどに見られる。更に、ソビエトの特徴的な技術としては単純にコピーするものと、単純に組み合わせるものが上げられるだろう。本カメラはLマウントライカのコピーであるゾルキーにミラーボックスを組み合わせたものだ。同じように、ニコンFがSPにベースにミラーボックスを組み合わせてはいるものの洗練されたデザインで纏められているのに比べ、本カメラはソビエト的なやっつけ仕事が見受けられて、その西側の美意識と相反するぬるさが心地よい。Lマウントライカのベースに大きなミラーボックスがアンバランスで、しかし、軍幹部に見られる独自のサモワール的なデザイン処理が絶妙にマッチングしていて非常にキュートである。拙僧は既に後裔機のゼニット3Mを持っていたが、そのルックスは常に注目しており、ついにネットオークションにビットを入れてしまった。その価格は6000円前後で拙僧としては随分の散財だったが、本カメラの標準的な落札価格よりは抑え目であろう。
 ソビエト物は兎角信頼性に問題が有るとされるが、本カメラも例外ではない。本カメラのフィルム装填は底蓋を外して行う。このときにフィルムのベロに大幅に切り込みを入れ、フィルム走行ゲートにスムーズにフィルムが通るように工夫しなければならない。これはLマウントライカと同様の有名な儀式なのだが、これがちゃんと行われていないとフィルムをシャッター幕が噛んでしまうのである。Lマウントライカでフィルムをシャッター幕が噛んでしまうという話を聞いたことが無いので、これはソビエト物特有の精度の問題だと思うのだがどうだろう。こうなると、シャッターが中途半端な状態になり、レリーズもできず、巻き上げもできずで完全なジャンクになってしまったと思った。それで、分解でもする老後の楽しみにほおって置いたのだけれども、図書館で借りた朝日ソノラマの「カメラメカニズム教室」のライカ型フォーカルプレンシャッターの件(くだり)で、シャッターダイヤルがフィルムドラムに直結している事を知る。そこで試しにぐりぐりシャッターダイヤルを回転させると、果たしてミラーが下がりシャッターがチャージされた。試しにレリーズボタンを押下するとシャッターが切れる。ソビエト物のカメラは確かに信頼性に問題が有るが、あまりにもプリミティブなのでほおって置くと直ることがあるのだ。手持ちではミールなども数年寝かしておいたら直ったのである。
 本カメラはクイックリターンでないのでレリーズボタンを押下した後はファインダーはブラックアウトし、再び巻き上がるまでミラーは降りない。ちなみに、ミラーの押し下げには1本の紐が使われており、そのあまりにもプリミティブな構造で不安を禁じ得ない。まあ、取りあえずシャッターは切れるのだから50年代半ばから60年代初旬という半世紀も昔のカメラだと思えば上出来である。半世紀も前のジェット爆撃機を抱える北国もあるのだ。
                 ☆           ☆
 軍幹部にはキリル文字で「Зенит−С」のロゴが光る。フォントが変わり文字になっているらしく、知らないと「Зеним−C」に見える。「C」は「エス」と読み、初代ゼニットにシンクロ接点とシンクロデュレイダイヤルを追加した物である。シンクロデュレイダイヤルというのはよく分からないがストロボの発光タイミングにあわせてシャッターが遅れるのであろう。一見するとシャッターダイヤルと同軸にスローシャッターダイヤルのような物が見えるが、それがシンクロデュレイダイヤルである。本カメラはガバナーが無いので下は1/25止まりで最速は1/500である。後裔機のゼニット3/3Mになると巻き上げはノブ式からレバー式になり、フィルム装填も裏蓋をヒンジで開閉させる常識的なものになるので使いやすくなるが、ルックスは常識的なものになって魅力は薄れる。興味深いのは、当時特殊用途向けと思われていた一眼レフカメラをソビエトが大量生産したことだ。日本でもアサヒ(ペンタックス)が一眼レフの利点にいち早く気づいていたが、これは先見の目があったと言うことだろう。
 操作感はゴリゴリとしていて「戦士のカメラ」を扱っている感覚が好ましい。巻き上げノブにも抵抗感があり、フィルムやミラーのチャージがダイレクトに伝わってきてスポーティである。マウントはM39で、これはネジピッチはLマウントと同じだがバックフォーカスが異なるので事実上転用はできない。レンズは「インダスタール50 5cm F3.5」でテッサータイプ。非常に薄くパンケーキと言っていいだろう。同じ構成でインダスタール22銘の物やLマウントの沈胴やリジットの物がある。以前、Lマウントのリジットの物を所有していたが、本レンズに下駄を履かせたような構造だった。案外、下駄でバックフォーカスを合わせているだけなのかも知れないな。絞りはマニアルでクリックも無いので事実上ファインダーを覗きながらの操作はできない。ファインダーは黄色がかっていて暗く、前面マットなのだがレンズが暗いこともあってかピントの山は掴み辛く、満足なフォーカシングにも耐えられない。キュートな外観とは裏腹にオーナーを選ぶカメラだ。ヒーレー・スプライト(カニ目)辺りも同様だだろうか?
                 ☆           ☆
 シャッターの走行音がいかにも頼りないので速度が出ているのか心配だったが、カラーネガだと見れる程度の精度は出ているようだ。これは半世紀も前のカメラとしてはかなり凄いことだと思う。ペンタックスS2やSVなどシャッターがちゃんと動くものを探すのは中々の仕事である。
 もっとも、本カメラで電光石火の撮影は難しい。拙僧は物心付いた頃からニコンFEが鎮座しており、年配の方々の一眼レフより距離計連動機の方が迅速な撮影が出来るというのはピンと来なかったのだが、本カメラで撮影すると、現在のように一眼レフが台頭するには自動絞りやクイックリターンの実用が必要だったことがわかる。
 そうなると、本邦の一眼レフの草分けであるアサヒフレックスから始まるアンティークなペンタックスにも興味が勃興するな。

 ゼニットはその後、M42マウントになりTTL露出計も内蔵されたが、新世紀になっても絞り込み測光だったり、最速は1/500だったりして基本的な構造はあまり変わっていないようだ。T−72のエンジンも基本設計はT−34から継承しているようだし、大陸的なおおらかさが感じられてよいものである。M42マウントのゼニットも興味があるが、本カメラに比べてもコンディションの良い物は少ないようである。本カメラは、ソビエトが強かった時代を実感することができて眼が遠くなる。  

 では、インダスタル50による撮影結果を見て頂きたい。

(了:2010/4/2)

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