KMZ ジュピター(ユピチェリ)12 35mmF2.8


JUPITER12
ボディを選ぶレンズである。

☆ジャンク度☆
不具合無し
撮影可能

JUPITER12 JUPITER12
この後玉の張り出しがパワーを感じる。

 第二次世界大戦で我が国を含んだ枢軸国はボッコボコにやっつけられてしまったのだが、もっとも悲惨だったのはドイツだろう。イタリアはさっさと降伏しちゃったし、我が国は島国だから空襲で首都や都市が焼かれちゃったけど戦車で蹂躙されることはなかった。悲しいかな、ドイツは陸続きでベルリンの先乗りは西側が厄介なことにソビエトに譲ってしまったので、それはそれは酷いありさまだった。我が国が西側に占領されたのは不幸にしても幸いだったな。それでも「占守島の戦い」で士魂の方々が奮闘してくださらなければ、北海道の留萌から先は赤軍が不法占拠していたかもしれない。戦争に負けたドイツは東西に分断され、ベルリンの一都市ですら東西に分断された。その西ベルリンを囲んだのが有名なベルリンの壁である。そんなことは拙僧のブログを読んで下さる方からすれば常識なのだが、拙僧のブログの読者には20代の方がいらっしゃって、ドイツが東西に分断されていたことを説明するのに結構な時間が必要なのだ。
 負けたとはいえドイツの科学力は世界一であって、西側陣営も東側陣営ものどから手が出る程欲しかった。ソビエトは光学機器のメッカであるイエナを占領し、そこにあったツアイスの設備を人員ごと接収してしまったのは有名な話である。一方でメッサーシュミットやBMWといった航空技術のメッカであるバイエルンはアメリカが取得した。何も火事場泥棒はソビエトだけが行ったのではない。世界初の巡航ミサイルであるV1(Fi−103)だってアメリカはJB−2ルーンとして生産している。我々が想像しているよりも(ナチス)ドイツは早く敗戦を迎え、JB−2は速やかに量産体制に入ったから、場合によってはP−47サンダーボルトが発射したJB−2が我が国のインフラ設備を破壊していたかもしれない。JB−2のプラットホームは航空機だけではなく艦船も採用していた。サターンだってアメリカ人だけでは手におえなくてフォン=ブラウン博士の手を借りなければだったしな。
 そんな訳で航空技術ではアメリカが先手を取ったのだが、ソビエトの手に入れたツアイスの技術だってお宝だったのには違いない。ソビエトは早い段階からコンタックス2のコピーであるキエフ2を生産する。これは設備も人員もイエナから引っ張り込んできたのだから、厳密にはコピーではないな。しかし、流石のソビエトも人員は本国(と言っても東ドイツだが)に帰して、ソビエト的な合理化を経てキエフ4を生産する。ソビエトの合理化というのは簡略化とほぼ同意だから、キエフ4シリーズのサブタイプは経年が進むほどやっつけ仕事になっていく。今でもキエフ4は安くてキエフ2はそこそこイイ値が付くと思うのだが、自国で開発した工業製品でも最初は気合を入れて設計しても、時間の経過と共に質が落ちていくのは共産圏の特徴だ。なので、旧いモデルの方が信頼出来て価値が高いのである。キエフはボディを流用したが、本当にソビエトにとって利益になったのはレンズだろう。写真用レンズだけではなく、潜水艦の潜望鏡や化学兵器の顕微鏡など光学的な技術が一気に進歩した。それまで、ソビエトのレンズ何て満足なコーティングなんて施していなかったからな(多分)。
 そろそろ話しのベクトルを本レンズに向けると、本レンズが戦前のコンタックス用のビオゴン35mmF2.8のコピーであることは有名である。しかし、全くのコピーという訳ではなく、それなりに修正したようだ。当初、本レンズの生産を始めたのKMZ(クラスノゴルスク機械工場)だったが、多分、生産過程でソビエト的な合理化を施したのだろう。ちなみに、この「クラスノゴルスク」という語感は「クラスのゴロツキ」に似ていてソビエトの根っからの悪態ぶりが感じられるな。生産はKMZに留まらず、LZOS(リトカリノ光学ガラス工場)やキエフ(都市名)のアルセナルでも行った。ソビエトに特許何て存在しないから生産を分離化するのは当然だ。ソビエトではライカを模したゾルキーやフェドも生産していたからLマウント化したレンズも製造した。もっとも、KMZやアルセナルでは本レンズの生産を早い段階から止めてしまったらしい。だから、我が国に流通する個体はLZOS製が殆どのようだ。なので、本ページのタイトルもKMZにするかLZOSにするか悩んだのだが、ソニーやタムロンが作っても「ツアイス」なのだからKMZにした。
 上記の通り、本レンズがビオゴンのコピーであるというのは厳密には正しくない。しかし、その延長上にはあるだろう。何しろリアレンズの出っ張りが、いかにもマッチョな感じで光学的なパワーがありそうである。実際、本レンズの描写は素晴らしい時もある。というのはやっぱりソビエトといか共産圏の物件だけに当たり外れがあるのだ。当たれば素晴らしい写りである。拙僧は1度大当たりを引いて感心したのだが、バンクーバ在住時代にサウスパークのクズ野郎に盗まれてしまった。数年後に中野のフジヤカメラで再び手に入れるのだが、外れではないと思える物の大当たりとは言えないな。本レンズを「コントラストが高くシャープネス」などと安物のデジカメ用レンズのように紹介しているコンテンツもあるが、拙僧はそうは思わない。もっとも、個体差があるレンズなのでそういう物件もあるだろう。大体、レンズの描写を安易に「コントラスト」などと表現するのは如何なものかと思う。本質的には諧調の塩梅であろう。諧調や解像という点では、本レンズは光線状態が良好であれば繊細な結像で柔らかくダイナミックなディテールを描く。しかし、日陰のような光線状態のよくないシーンでは凡庸である。もっとも、これは拙僧が絞ってキャンデットフォトを主用としているからで、絞りを開け気味にしてちゃんと距離計でフォーカシングすれば本当にシャープなラインを引くのかもしれない。人工物を見る限りでは確かに解像力があってシャープである。しかし、女性の髪のようなデリケートな曲線を再現するには至っていない。もっとも、それは60年代以降の国産レンズを比較しているからであって、基本設計が戦前の本レンズと比較するのは筋違いかもしれないな。
 ちなみに、本レンズはボディを選ぶ。例えばベッサRシリーズとかキヤノン7、或いはライカM5などには張り出した後玉が干渉して付けられない。ところが、拙僧の大当たりの物件はキヤノン7について実際に使った。ヘキサーRFにもつくとかつかないとか諸説がある。この辺も個体差によるのだろう。
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 本レンズは「JUPITER」と表記があるがキリル文字では「ЮПИТЕР(ィユピーチェリ)」になる。汎的には「ユピテル」と称されることが多いが、なんだか安物家電メーカーのようで拙僧は好まない。ワザワザ、英語のアルファベットで表記しているのは輸出を意識したか輸出向けなのだろう。キエフ4も英語のアルファベットとキリル文字を併記している。ブレジネフだかが「西側の愚かな連中は自分を撃つ銃まで輸出している」と揶揄したけど、ソビエトが西側の通貨を欲していたのも事実なので妙な話である。
 実売は1〜1.3万円くらいだと思うのだが、ミラーレス一眼ブームでもっと上がっているいるかもしれない。でも、この間フォクトレンダーのカラースコパー35mmF2.5が3万円くらいだったから、それに肉迫するとは思えないな。繊細なディテールは兎も角、直線的な人工物は確かに得意なので都会向けのレンズだ。安い距離計機の広角レンズとしては選択肢として有りうるだろう。ミラーレス一眼に付けるのなら純正レンズの方が遥かに幸せだと思うけど。


 撮影結果(新宿散歩1編)を見て頂きたい。
 



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