京セラ コンタックスTVS


ContaxTVS
元祖高級コンパクトカメラにズームレンズを搭載

☆ジャンク度☆
無し
撮影可能


ContaxTVS ContaxTVS
 こいつが泣く子も黙るバリオゾナー。

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 この「CONTAX」のロゴが刻まれたレンズキャップを無くすと、凄まじく後悔しそうだ。

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 あまり褒めてもらえない液晶組み込みファインダー。

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 目測だがマニアルフォーカス可。
 コンタックスT2ではフォーカスダイヤルが電源スイッチを兼ねていたが、本カメラではズーミングレバーの操作で電源を起動する。

ContaxTVS ContaxTVS
 眩しいコンタックスブランド。

ContaxTVS ContaxTVS
 この液晶パネルがお亡くなりになるのが、本カメラの定番のトラブルのようだ。
 このクラスの高級コンパクトカメラにパノラマモードは必要だろうか。

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 シンプルな背面は凛々しい。


 拙僧がカメラ民族として自覚した頃の話である。価格帯は無関係に、ズームレンズを評価する決まり文句が「単焦点レンズと比較してもそん色のない写り」であった。逆を言うと「ズームレンズの描写はダメ」という事であった。それは一眼レフの交換レンズだからとか、廉価コンパクトカメラだからとかは関係ない。更には、シンプルな単焦点レンズを搭載した2万円くらいのリコーR1とか京セラTプルーフ(これは現役時代に買っておけばよかった)は潔くアッパレであり、雑誌のカットレベルの仕事に実用になると高評価されていた。もっとも、この「仕事につかえる」とか「プロの使用に耐える」等という決まり文句も、既にオールドスタイルだろうな。今どき、ポジでクロス現像したサービスサイズのプリントに自作のポエムを添えるようなコアなカメラ女子(男子)が、写真のプロになりませんか等と嘯かれても、「キャリーぱみゅぱみゅのツイート(今はLINEか?)を追うのが忙しいから遠慮します」と言ったところであろう。分かり易い他言語に変換すると「年式がxx以降のメルセデスはドイツの魂が無い」とか「ZZR1100のx型以降はニンジャじゃない」とか「殲撃7型のxx以降のサブタイプは最早ミグ21ではない」とか、兎角、機械物好きの男子はセクト主義に走りがちだ。もっとも、最後の例はちょっとピントが外れているような気もするけど。
 コンタックスTシリーズはローライ35が開拓して、その後ちょっと先細りした「高級コンパクトカメラ」というジャンルを再び花開かせた。もっとも、初代のコンタックスTというカメラは、そのゾナーブランドに恥じない素晴らしい写りをしながらも、距離計連動機のマニアルフォーカスでフラッシュが別体と、お好きな方には堪らない物の、ちょっと取っつきにくいところがあった。しかし、今や(いや二昔前だが)ポルシェだろうがフェラーリだろうがオートマで4シーターか、せめてゴルフバックが入らないと細君の許可が下りない世知が無い世の中なのだ。高級コンパクトカメラだってAFでないと、娘の入学式で困った事態になる。ここで、我々が改めて認識なければいけないのは、当時はこういった高級コンパクトカメラのカテゴリーであっても実用的でなければ、その存在は許されなかったのだ。フィルムカメラの黄金時代、1993年に登場した本カメラは驚きの定価17万円もしたのだ。バブルだなあ。今では実用などという失敗の許されないシリアスなシチュエーションは3万円かそこらのコンパクトデジカメに任せればよい。肝心なのは、珠光の高級コンパクトカメラの中古価格が安くなった。拙僧が本カメラを入手するために失った損害は7500円である。こうなると、かつての高級コンパクトカメラをツマラナイ撮影に使う優美も可能なのだ。実用目的を失ってこそ、高級カメラが活きるのだ。
                ☆           ☆
 本カメラに遭遇したのは名古屋中古カメラ戦役冬の陣だった。幸い、拙僧の師団はカシオのエクシリムEX−F1が良い値段で売れたのでひとまず十分な戦力を保持しての参戦であった。もっとも麾下の部隊は敵の「キヤノンL1距離計連動装甲擲弾兵師団」との交戦で損害も深刻だったから、既に組織的な作戦は難しかった。つまり、あの有名な「私もよくよく運の悪い男だな。ゲリラ作戦からの帰還中に、こんな大物に出会うとは。」のセリフも吐きたい状態だったのである。偵察部隊からの報告によると、敵は7500円の代物であった。名古屋の公式中古カメラ戦役ではオークション枠というのがあって、2〜3のショウケースに優良な(と敵店主が考えている)中古物件が入札式で展示してあるのだ。敵の部隊は、そのオークションで買い手がつかず、流れたものらしい。敵カメラ、つまりコンタックスTVSは、大成功したコンタックスT2に、泣く子も黙るバリオゾナー28〜56mmF3.5〜6.5のズームレンズを搭載したものである。中身は知らないが、外側から見ると、コンタックスT2の意匠を完全に踏襲している。実は以前からコンタックスTVSは、何れは戦火を交えなければならないな、と覚悟はしていたのだ。「TVS?写りなんてフジフィルムのティアラズームと変わらないっすね。」と軽口を叩きたいという曲がった魂胆もあったのだが、興味したのは28mmから始まるズームレンズを搭載しているのだ。コンタックスT2のゾナー38mmF2.8の写りは、それは素晴らしい物である。特に日の落ちた薄暗い街をモノクロフィルムで撮ると、しっとりしながらも暗部に粘りのある、良いネガを撮影できるのだ。しかし、38mmという焦点距離は、世の中が38mmのレンズしか存在しないのであれば何の不満も無いが、なまじ手元にはリコーのGR10があるし、「引きが欲しい場合もあるだろうから、28mmのGR10メインで行くかあ。まあ、それほど嵩張るわけではないから、ニコンEMAiSニッコール50mmF1.8をつけるか、いっそミノルタX−700にビビター135mmF2.8でもつけてポートレイト用にするか。」といった感じでコンタックスT2の稼働率がイマイチなのである。同じ理由でフジフィルムのクラッセも稼働率が低いな。なので、28mmから標準域の56mmをカバーするコンタックスTVSには、想いを馳せていた。
 最初の接敵は「お道具拝見」といった程度の武威偵察だ。まず外観を眺めるが、取り立てて目立つ傷も無い。新品同様とは言わないが、まずまず綺麗なコンディションである。コンタックスTVSには撮影枚数やフラッシュモードを表示する液晶パネルがダメになるのと、レンズが曇るメジャーな欠陥があるのだ。物件には液晶パネルの問題は無かった。しかし、レンズの方は曇ると言えば何となくそうにも思える。かと言って、いろいろ角度を変えて眺めても見るのだが、取り立てて撮影に影響があるとも思えなかった。敵の将校にレンズの清掃を指示すると、なんとなく問題ない風にも見えた。ファインダーを覗く。「暗い!!」というのが率直な印象だった。初めはシグマSA−7のようなメジャーなトラブルなのかと思った。実は、拙僧は知らなかったのだが、コンタックスTVSのファインダーは液晶を組み込んでおり、部分的に半透明にしてパララクスを表示したり、電源オフの時には「OFF」を表示するなど、凝った仕様になっているのだ。そういう故障の原因になる様なギミックも京セラらしいが、また、京セラなので信頼性に不安を感じてしまうな。
 少し冷静になって操作の感触を確かめてみる。なかなかずしりとしたボディマスである。モダンなデジカメのコンパクトさと比較するのも野暮だが、高級コンパクトカメラだと思えば貫禄に見える。この大きさを否定なさる方も多いが、今更、フィルムカメラを使う面倒を鑑みたら、大した問題にはならない。スタイリングに関しては、大佐殿がブログの中で「バランスが悪い」と辛辣な評価を述べていらっしゃる。念のため補足するが、大佐殿は「わかっていて仰っている」のであって、TVタックルからの情報だけで中国批判をなさっている方々とは一線を画している。バランスですかあ、そりゃシンメトリーな初代Tと比べるとねえ。しかし、ですよ。例えば京セラコンタックスを潤したGシリーズなんていうのも、特にG1は不安定なスタイリングですよねえ。でも、なんか、そこがイイなって思うんですよ。持ってはいませんよ。ボディは捨て値ですが、レンズはイイ値段しますからね。同じディスタゴンだって、一眼レフのヤシコンマウントの方が買いやすいですよ。ディスタゴンを引っ張り出すようなシリアスなシチュエーションなら、フォーカスが確実に確認できる一眼レフをメインにしますよ。サブでG1ですかあ?サブならTVSでいいじゃないですか。どこかGシリーズとTシリーズのスタイリングは似たところがありませんか。それにね。拙僧はあんまり品格を下げる発言は控えることにしているんですが、あちらの世界には「ブサイクだけど床上手」っていうジャンルがあるらしいんですよ。ああ、この件(くだり)は日本中のコンタックス信者の方を敵に回しそうだなあ。
 兎に角、ファインダーの件は故障ではないと分かったし、動作も問題ないように思えた。しかし、なんたって、敵は中古カメラ戦役で遭遇したゆきずりの業者である。名古屋民族系の業者ではないらしく、名前も覚えていない。無論、「故障はしていないが保証は無し」なので、簡単に麾下の兵隊を無駄死にさせたくはない。7500円というのは、拙僧の師団にとっては大損害である。そこで一度は戦線を離れた。冷静に判断する。確かに7500円は痛い出費だ。それだけで、今回の戦争は終わってしまう。しかし、名古屋中古カメラ戦役冬の陣も佳境を下っている。ツマラナイ物件に無駄な出費をして、結局使わないのに比べれば、高級コンパクトカメラに纏まった戦力を投入して、銃後の生活に活用する方が祖国にとっても自国民にとっても良いのではないかと判断した。なので、思い切ってナケナシの戦車連隊を消耗し、敵であるコンタックスTVSを確保した。
                ☆           ☆
 しかし、拙僧も偉くなったものだ。コンタックスT2とコンタックスTVSを同時に所持し、その手触りを比べたりできる。勿論、拙僧は定期的な収入があるわけでもないから、偉いのは妻なのだが。ヒヤリとするボディはチタニウム合金だ。金属製ボディのデジカメは現在でも盛んだが、大抵はアルミニウム合金で少し豪華だとマグネシウム合金である。チタニウム合金と言うのは1993年のカメラとしては、かなり奢ったものだ。地下資源に期待できる連邦軍と、所詮はコロニー住まいのジオンのモビルスーツの素材の違いがある。この点は、比べると悪いが、やはりクラッセ辺りとは手触りの心地よさのクラスが異なる。この時代、チタニウムというのはステイタスであり、ニコンFM10やそのファミリーがシャンパンゴールドなどと称してチタニウム合金に近いペイントをしていたのも今は昔だ。バランスが悪いというのはカメラを正面に見て、レンズが左側にオフセットされている点であろうか。たしかに、ちょっと右側が間延びしている風に見える。気になる方は右側に革を貼って見栄えを良くしているらしい。伝統的なコンパクトカメラのスタイリングとしてはファインダーが中央にあって、レンズも中央に位置しているのがパララクスを少なくして都合がよいのだが、何といっても本カメラは液晶でパララクスの補正を表示するギミックが売りだから、そんな小細工は無用なのだろう。具合が悪いというのは、本カメラの特徴であるズーミングレバーの操作時であろうか。本カメラはズーミングレバーの操作で電源がONとなり、ズーミングはマニアル操作である。当たり前のように聞こえるが、ズームレンズを搭載したコンパクトカメラで、ズーミングが所謂パワーズームになっていないカメラは珍しい。この辺のマニアル操作感は京セラも当初は売りの一つにしていたようだ。確かに絞り優先AEも可能だし、目測だがマニアルフォーカスも可能である。こういう事は高級コンパクトカメラでは必要なプロパティとされていた。ファインダー内にはシャッター速度を表示し、ユーザー設定の自由度は高い。ただ、こういったマニアル操作の美点を、その後の京セラは忘れてしまったらしく、コンタックスTVS3では通俗的なパワーズームになってしまった。
 コンタックスT2ではフォーカスダイヤルに組み込んでいた電源スイッチが、コンタックスTVSではズーミングレバーの操作になってしまったのだが、拙僧個人はTVSの方式はあまり好ましくない。というのは、やっぱりズームレンズというのは、焦点距離の端と端で使いたいこともあるのだ。そうでなくても、拙僧は28mmの画角に魅かれて本カメラを求めた筋もある。これで、例えば電源ON+28mm位置にクリックでもあれば何の問題も無いのだが、焦点距離をファインダー内でも液晶パネルでも表示するわけでもなく、どこか物足りない思いがするな。ファインダーは暗いと言えば暗いのだが、ペンタックスSPにF4クラスのレンズと付けたと思えば、どうということは無い。ファインダー中央には楕円を表示し、その辺りが測距位置なのだろう。詳細な資料を見つけられなかったのだが測距点は中央一点なのだろうか。そうなると、AFはリコーR1の方がお利口さんということになる。リコーR1の3点測距はなかなか大したものだ。コンタックスT2はAFが中抜けするというので評判が悪く、赤外線アクティブ式オートフォーカスが外部パッシブ式+AF補助光になった。拙僧個人はコンタックスT2のAFもコンタックスTVSのAFも不満に思ったことは無い。ただ、拙僧は歩きながらスナップするようなシチュエーションでは、フォーカスを5mに固定する場合もあるので気が付かないだけかもしれないな。コンタックスT2では絞りリングをF2.8に設定するとプログラムAEになり、折角のゾナーを任意で開放に設定できないという歯がゆい思いをさせられたが、コンタックスTVSでは「P」と開放の「3.5」は別のポジションになっているから、開放で撮影することが出来るのだろう。あまりズームレンズで開放になっても嬉しい気はしないが。拙僧は大抵の場合F5.6〜F11で撮影するので、あまり困らない。シャッター速度はコンタックスT2では絞り優先AE時に最速1/200と、かなり残念なデザインだったが、コンタックスTVSでは絞り優先AE時でも1/500まで速くなった。ちなみにプログラムAEでは最速1/700である。コンタックスTVSが際立つのは遅い方のシャッター速度で、最長16秒である。なんかニコンFEみたいだ。ちなみに、16秒以上ではバルブになるそうだ。コンタックスT2でも1秒以上はバルブになるそうだから、あまり使い勝手は変わらないような気もするな。何れにしろ、拙僧は本カメラで高感度フィルムを詰めて夜景は撮っても、星を撮ろうとは思わないから試していない。コンタックスTVSの高級ぶりで一番嬉しいのが、フラッシュモードを電源オフでも覚えていることだ。なので、散歩スナップショットでフラッシュが焚かれて、著しく不味い状況に至ることは無い。そんな事と、初めて手にしたカメラが21世紀以降のコンパクトデジカメだという方は思われるかもしれないが、電源をオンする度にフラッシュモードを確認しなくても問題なくなったのは、最近のことなのである。
 写りのことも言わなければダメっすかねえ。拙僧の駄眼での判断なので大体に聞いていただきたいのですが。ちゃんと撮影したのはモノクロネガだけだと思っていたのだが、本カメラの撮影画像を格納したフォルダーにカラー画像が残っていたので、少なくても1度はカラーネガで撮影したのは間違いない。モノクロもネガをフラットヘッドスキャナーで読んだだけですが、それは素晴らしいの一言である。コントラストのメリハリも良く、若い女性の肌も朽ちかけたピアジオのスクーターの錆びも説得力のある再現性である。ただ、カラーネガの結果を見るとポジだとオーバーかもしれないな。
 弱点は何度も登場するが、バランスの悪さということになるな。カメラを構えて右手側のスペースが狭いので右指の力の入れ具合がどうしても弱くなってしまう。そこそこのスケールとマスのカメラだから片手で撮影するのは諦めるとしても、指の長い方だと中指と薬指を不自然に曲げなけらばならないな。それが、ちょっとコンパクトデジカメを指先で摘まんで液晶ビュワーで撮影するポジションを髣髴させて、折角のフィルムカメラを操作する快楽を若干削いでいる。
                ☆           ☆
 かつては神か女神とされたコンタックスブランドも、消滅してから随分と時間が立つ。コンタックスに「開眼」なさった「プロカメラマン」が「作例」を分厚いハードカバーの経典として素人に御伝授なさっていた等と言うのは、キタムラのフォトブックで作った作品をオフ会で披露する若い方々には全く無意味な昔話ではある。それでも、コシナのカールツアイスのレンズ、例えばニコンFマウントのビオゴン35mmF1.4を2泊3日で7200円も払ってマップカメラでレンタルする若い連中もいるのだから感心な物だ。
 やっぱり7500円で本カメラあたりを拾って、1本10元の中国製モノクロフィルムを通しているような拙僧も、ある種の幸せ者なのだろうな。

 では、撮影結果を見て頂きたい。

(了:2013/3/18)

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