キヤノン キヤノンP


CanonP

☆ジャンク度☆
シャッター若干不安定(?)
撮影可能


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 シンプル化したファインダーだが、見え具合は素晴らしい。

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 このセルフタイマーレバーの形状は、後の一眼レフにも踏襲していく。

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 廉価機とは言え、ほれぼれとする仕上がり具合。

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 巻き上げはスムーズ。

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 今では「光学ファインダーで撮影」を説明するにも頭を捻るようになった。

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 感度メモダイヤルもスタイリングのアクセントになっている。

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 キーをねじってロックを解除してからレバーで裏蓋を開ける。

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 キヤノンのシャッター幕はよれよれになっているのが普通だが、大抵の場合は問題ない。



 キヤノンPの「P」はフランス語の「大衆」を意味する「ポピュレール」の頭文字だそうである。英語なら「ポピュラー」という事だろう。要するに大衆機、つまりベーシックモデルとして登場した。キヤノンのLマウント距離計機にはLシリーズがあるのだが、このシリーズの立ち位置がよくわからない。それに比べると、本カメラのコンセプトは明瞭である。発売は1959年3月で、基本的には前年に発売となったメインモデルであるキヤノンVIの廉価版が本カメラだ。廉価版とは言え、工数を間引いているは主にファインダー系で、シャッターは最速1/1000だし、スローも1秒まであるので実際のところ困ることはないだろう。キヤノンお得意の可変視野率の切り替えをやめて、常時35mm、50mm、100mmのブライトフレームファインダーを表示している。しかし、パララクス補正を搭載し、100mmを使う場合でもそこそこ安心できる。もっとも、100mmを常用するような方は一眼レフを確保なさった方がイイ。だからなのか、キヤノンの100mmはFL/FDマウントのモノもネットオークションでもイイ値がついている。

 ベッサR2とファインダーを比べてみよう。ベッサR2のファインダーは倍率が約0.8割であり、本カメラは等倍ファインダーである。だからなのか、本カメラの方がフォーカシングしやすい。距離計像はベッサR2の方が分離枠がハッキリして良さそうなのだが、実際には本カメラの方がフォーカシングしやすい気がしてならない。もっとも、等倍ファインダーだと35mmのブライトフレームファインダーはギリギリ収まっているようである。得に拙僧のようなメガネものにとっては、35mmのブライトフレームを見る為には目玉をぐるりと回す必要があるのだが、そもそも距離計機で35mmを使うならフレーミングは感覚で素早く行う物であり、それほど正確でなくても構わないだろう。正確なフレーミングを求めるなら、やはり一眼レフになる。もっとも、拙僧もいい歳になってきたせいか一眼レフのフォーカシングがきつくなってきた。「広角レンズでの迅速なフォーカシングは距離計機(要するにライカ)が有利」という謳い文句は拙僧が若い頃はジジイ趣味の戯言と思っていたのだが、実際にジジイの年齢に近づくと広角レンズの微細なフォーカスは衰えた目に負担なのだ。悲しいかな現実なのである。それに比べると、距離計機の二重像は目の衰えに優しいのだ。それで懐が裕福ならライカの一つでも信仰したくなる。そういえばキリンもポルシェに傾きかけていたなあ。

 本カメラがベッサR2に比べてアドバンテージがあるのはシャッター音、或いはシャッター動作時のショックである。ベッサR系のシャッターはモデルが新しくなるほど程改善しているらしいのだが、かなり甲高い。またショックも大きい。ショックの大きさは一眼レフに比べて大した問題ではないのだが、甲高いシャッター音は混雑した浅草寺で被写体にばれる程なのでキャンデットフォトにはとても都合が悪いのだ。音の大きさよりも音域の問題だと思う。それに比べると、本カメラのシャッター音は静粛とは言わないが「パタン」と音域が小さいのでキャンデットフォトには都合がよい。もっとも、ルックスがクラシック然として目立つので、隠れて撮影するには向かないだろう。スナップ撮影など、どうどうとして行えばよいのである。

 キヤノンカメラミュージアムでは本カメラの次がキヤノンフレックスになっている。既に時代の先見は一眼レフにあった。よく語られることだが、ライカM3の登場で日本の技術陣は既存の距離計路線を断念し、一眼レフ路線に舵を切った事で世界的な成功を手に入れたというのが定説である。しかし、1950年代後半から1960年代前半のカメラ雑誌を見ると、まだまだ中判蛇腹カメラも現役だったし、実際のところキャンデットフォトは35mm前後のレンズが付いたレンズシャッター機の方が便利だったりして、コンシューマーの方は言われるほど絶望していなかったようだ。勿論、ライカM3やライカM2など、中流市民に到底買える代物ではなかったので、最初から選択肢として存在しなかったのかもしれないが。メーカーの方もミノルタの社長がミノルタスカイというパーフェクトに近い距離計機を抱えながらも、アメリカ出張後に潔く切り捨てて一眼レフの開発を指示したように、コンシューマーは既に一眼レフを渇望したのであろう。距離計機のファインダーと一眼レフのファインダーは、今でいうところの光学ファインダーとEVF程の違いがあったんじゃないかな。

                ★           ★

 本カメラは10万台もの発売を記録した大ヒット作である。何しろ、価格がメインモデルのVIに比べて半値だったのだ。同様にニコンが廉価路線を狙ったニコンS4は6000台も売れていないので、これは完全な敗北だな。ベッサR2に比べて本カメラのデメリットは露出計が無いことだ。また、何しろ半世紀も前のカメラだから信頼性や安定性は比べ物にならない。もっとも、シリアスな撮影なら本カメラは選択肢として不適当だ。そういう撮影は迷わずデジカメを使うべきだろう。

 拙僧の個体は新宿のBOXで6000円で確保したものである。拙僧もサッパリ忘れていたのだが、自分のサブブログに書いてあった。撮影結果は若干の露光不安定が有ったが、趣味カメラ(アルプス堂風の表現である)としては大した問題にならない。Lマウントのクラシックカメラをお求めなら十分に検討する価値がある。



(了:2015/3/31)

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